ネック用木材の選び方・特徴

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ネックは手に触れる時間が圧倒的に長く、弦高やバズなど演奏性に大きく影響します。

ギターのネックには約50㎏、4弦ベースでは約85Kgもの弦の張力がかかり、さらに気温や湿度などの外的な要因にも影響を受けやすい過酷な状況にあります。

そのような状況で良いコンディションを保つには、木材の強度や乾燥状態、適切な加工方法などが重要になってきます。

木取り

木取りには大きく「板目」「柾目」があり、中心側を「木裏」、樹皮側を「木表」といいます。

板目

木目の美しさや歩留まりの良さから、最も目にする機会の多い木取の方法でしょう。

弦の張力に対して十分な強度はありますが柾目よりも弱くなります。

その反面ネック自体の鳴りが豊かで力強い鳴りが特徴です。

柾目

板目を90度回転させたような木取で、弦の張力に対してのネックの剛性が高くなります。

レスポンスが良くクリアでタイトなサウンドでサスティーンも長くなる傾向があります。

サウンドの傾向からか、スタジオミュージシャンやテクニカルなプレイヤーに人気が高いような気がしますね。

反りについて

板目と柾目では「板目の方が反りやすい・ねじれやすい」というイメージが強いんじゃないでしょうか。

木材が反る原因として、木表と木裏の木目の差による収縮率の差というのがあり、乾燥すると左の図のように木表側に反ります。

板目の場合、ネックの指板側とグリップ側が木表と木裏になります。

ネックの場合では弦方向の反り(順反り・逆反り)が大きく出るため、板目の木材を使用する際には、ネックの指板側が木表に、グリップ側が木裏になるように木取りをすることが一般的です。(順反り方向)

さらに弊社では板目の中でも中心部分をレギュラーとして使用しています。
そうすることで反り方が素直になり、トラスロッドのみでの調整で問題を解決することができます。

柾目の場合、サイドが木表と木裏になるため、弦方向の反りには強いです。
ですが、木材によっては木表側に反ることで斜めに傾くように反る場合もあり、そうなるとトラスロッドの調整だけでは解決が困難になります。

製作をしている身としては、板目や柾目によって反りの傾向を判断したり木目の状態で使用する木材を選定することはできますが、どちらの木取でも、時間をかけて木材の狂いを修正しながら製作していくことが一番重要だと思います。

メイプル

まずネック材といえばメイプル!
ギター・ベースともに一番スタンダードな材です。
大きく分けるとソフトメイプルとハードメイプルに分かれますが、ネックには強度の高いハードメイプルを使用することが多いです。

メイプルは硬さと適度な重さがあるので、アタックが強く高音の出た明るいサウンドが特徴です。

さらにフレイムやバーズアイといった杢の入ったものもあり人気が高いです。
キルトメイプルはソフトメイプルにしか現れない杢なので、ネックに使用されることはほとんどありません。

さらにサーモメイプル(ローステッドメイプル)と呼ばれる、木材を無酸素の状態で高熱処理をするサーモ加工が施されたメイプルも多く普及しています。加熱によって木材の組織を変質させることで水分による反りねじれが少なくなり、ネックのコンディションを保ち易くなります。和音のバランスやまとまりが良く重量は軽くなります。

→サーモウッドについて

マホガニー

セットネックやハムバッカーとの組み合わせで最もポピュラーな木材であるマホガニー。

ネック材の中では柔らかく軽い木材で、強度を確保するため基本的には柾目で使用します。
ベースのネック材として使用することも出来ますが、強度的に弦の張力に負けやすいので、製作時には強度を確保する工夫が必要です。

サウンド的にはハムバッカーとの組み合わせが多いので、ウォームで暗めの傾向があるイメージですが、高域の特性も悪くないように感じます。

ローズウッドやエボニーなどの硬質な指板と合わせることで、ネックの剛性やサウンドを補うことができます。

ボディ材編でも触れましたが、正式にはセンダン科マホガニー属のホンジュラス、キューバン、メキシコマホガニーの3種を指します。
センダン科のアフリカンマホガニー、サペリ、チャンチン、栴檀などもマホガニーと呼ばれ代替材として利用されます。

ローズ

通常指板に使用する木材ですが、ネック材として使用することもあります。

ローズウッドのボディと合わせて、「オールローズ」として製作されることも多いですね。

非常に重く硬い木材でタイトな低音とメリハリのある分離感の良いサウンドが特徴。レスポンスが良くサスティーンも長いので、早いフレーズやタッピングでも音が潰れず立体感のあるサウンドが出せます。

ネック自体が重く仕上がり、通常よりもネック寄りに重心が来るので、ヘッド落ちやバランスに注意が必要です。

きれいに磨き上げると、上質な光沢と質感が出ますので、塗装よりもオイルフィニッシュでの仕上げがおすすめです。

ウェンジ

黒と茶色の木目が特徴的な木材で、衝撃や曲げに強いという特性があります。

茶色の部分は比較的やわらかいので削れやすく、黒い部分はかなり硬く削れにくいので、茶色の部分が若干凹んだような凸凹の仕上がりになります。違和感があるように思うかもしれませんが、そんなことは無く、逆にその点がグリップの抵抗感を抑え滑りをよくし、演奏性を高めます。

ローズと同じく重硬な木材でサウンドの傾向も似た部分がありますが、より低音~中低音あたりが強く出る印象で、太く粘りのあるサウンド傾向です。

ベースで見かけることの多いネック材ですが、最近ではハイゲイン系のギターにも多く採用されています。

ローズウッドと同じようにしっかりと磨き上げオイルフィニッシュで仕上げるのがおすすめです。

水楢

家具や建築材、樽などにも利用される国産の木材で、外国産の木材の高騰や入手性が不安定になってきたことから、弊社では国産材を楽器に利用し始めました。

メイプルより柔らかく、マホガニーとの中間のような硬さですが、ベースにも十分使用できる強度です。

メイプルのようにレンジが広く派手なサウンドではありませんが、明るめのサウンドで、アタックが柔らかくミドルにまとまったような印象です。

極薄の艶消し塗装にすることで、荒い導管の質感を活かし、木材ならではの上質さと温かみのある仕上げにすることができます。
また、水楢の導管はチロースという充填体でふさがれているようで、水分が浸透しにくいという性質があります。そのため、オイルフィニッシュでも湿度の変化に強いのではないかと期待しています。

白樫

水楢と近縁種で同じく国産の木材です。見た目は水楢と似ていますが、より密度が高く、硬く、重い木材です。

そのため水楢と似ていますが、より硬質で低音がしっかりと出るサウンドの印象です。

水楢と同様に極薄の艶消し塗装がおすすめです。
白樫にもチロースがあるので、オイルフィニッシュに適しているのではないかと期待しています。

カーボン

カーボンネック

木材に代わる素材として人口素材の炭素繊維強化プラスチックを使ったネックです。
グラファイトネックとも呼ばれ、その歴史は意外と古く1977年の展示会で発表されたようです。

人工素材なので、環境変化に影響を受けにくく、ネックの強度も高くなります。

木材とは異なり、安定した素材なので、デッドポイントが少なくサスティーンか長い、レスポンスが優れているなどのメリットがありますが、
その反面、冷たく硬質なサウンドで好みが大きく分かれる素材でもあります。

弊社で製作しているカーボンネックは、柔軟性を持たせしなりが出るように設計しており、従来のものに比べると、カーボンの利点を活かしつつ自然な鳴りを得ることができます。

→カーボンネックについて

まとめ

ネックの材はボディ材に比べると、材の強度や反り狂いなどにシビアなため使用できる材の条件が厳しいです。

やっぱり昔から使用されているメイプルやマホガニーが安定性が高く加工性も優れているので普及がとても多いのは納得ですね。

ただメーカーとしては、質のいいメイプルやマホガニーなどの楽器用材が減ってきている今、従来の木材に代わるカーボンなどの素材や今まで使用されていなかった木材も開拓していくことも大事なことだと思います。

従来の木材のサウンドとは異なるためギャップも大きいと思いますが、サウンド的に劣るわけではないので、皆さんもぜひ新しい木材や素材にもチャレンジしてみてはいかがでしょうか!

>>スタンダードなボディ材の特徴

>>指板材の特徴

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